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SNS選挙戦がもたらした影響と偽情報対策の課題

2024年秋、日本と米国で行われた選挙戦では、SNSを通じて偽情報が横行し、民主主義の根幹を揺るがしかねない事態となった。日本では衆院選で自民党・公明党が過半数割れとなり、米国では共和党のトランプ前大統領が大統領の座に返り咲く結果となった。このような変化の背景には、ネット上で広まった偽情報が選挙戦の流れを左右したとの指摘がある。

生成AIの進化によって偽情報がより巧妙かつ影響力を持つものとなり、誤情報に基づいた投票行動が結果に影響を与えた可能性が否定できない。特に、短期間で行われる選挙戦ではファクトチェックや反論が追いつかず、有権者の認識が歪められるリスクが顕在化している。

日本の事例:衆院選と兵庫県知事選

日本の衆院選では、自民党の裏金問題に関連した偽情報がSNS上で拡散。石破茂首相が不適切な発言をしたとされる投稿が有権者の間に不信感を広げ、複数の選挙区で自民党候補に打撃を与えた。また、特定候補への二重国籍やスパイ行為を匂わせる攻撃的な偽情報も散見され、一部の候補者は比例復活を余儀なくされた。

兵庫県知事選では、稲村和美候補へのネガティブキャンペーンが展開される一方で、対立候補の斎藤元彦前知事を擁護する偽情報が拡散。結果として、斎藤氏が逆転勝利を収めた。このような事例から、SNS上の偽情報が選挙結果を左右する現象が明確となった。

米国の事例:トランプ氏とハリス氏を巡る攻防

米国では、偽情報の氾濫がさらに深刻化。民主党のハリス副大統領が標的となり、「共産主義者」と印象付ける偽画像やひき逃げ事故を起こしたとする偽動画が広く拡散された。これらの情報の多くにはロシア政府の関与が指摘され、国外勢力による選挙干渉の実態が浮かび上がった。

さらに、共和党のトランプ氏を支持する動きがSNS上で活発化。SNSプラットフォーム「X」のイーロン・マスク氏が直接的にトランプ氏を後押しし、表現の自由を盾に偽情報の拡散を助長したとして批判が集中している。

「お願いベース」偽情報対策の限界

日本では総務省が選挙前にSNS事業者やAI関連企業に偽情報対策を要請したが、強制力のない「お願いベース」にとどまり、実効性は乏しかった。一方、米国でも州ごとに規制の取り組みが異なり、連邦レベルでの包括的な法整備は進んでいない。憲法で表現の自由が保障されていることや、IT企業のロビー活動が強い影響力を持つことが障壁となっている。

今後の課題

選挙とSNSの結びつきが強まる中、ネット上の偽情報対策は喫緊の課題である。現状では、選挙時に実施されているファクトチェックは時間を要し、即効性に欠ける。これにより、偽情報が広がる事態を完全には防げていないのが実情だ。
この実情に対し、欧州連合(EU)で導入されており、世界的な偽情報対策の手本とされている「デジタルサービス法(DSA)」を求める声が日本でも高まっている。
DSAとは、違法情報や有害情報の削除をプラットフォーム事業者に義務づけ、違反には売上高の最大6%の罰金を科すという強力な規制策だ。

偽情報は選挙だけでなく、社会全体の信頼を揺るがす問題である。その封じ込めには、政府、事業者、個人がそれぞれの責任を果たし、健全なネット社会の構築を目指す必要がある。