初代ぬいぐるみに2200万円の値がつく

世界中でブームを巻き起こしているぬいぐるみ「Labubu(ラブブ)」が注目を集めている。中国のオークションでは、初代モデルに2200万円という高値がつき、発売元である中国企業「ポップマート(POP MART)」のCEOウォン・ニン氏は、推定資産3兆円(227億ドル)で中国国内10位のビリオネアとされている。
日本発の“ガチャ形式”がグローバルトレンドに

ラブブ人気の背景には、「ブラインドボックス」と呼ばれる購入前に中身がわからない仕組みがある。これは日本のガチャ文化をルーツとし、購入者にギャンブル性と期待感を与える要素として、Z世代を中心に広く受け入れられている。
ブラインドボックス方式は、2000年代に日本で登場した「ソニーエンジェル」などのトイシリーズによって浸透し、現在ではラブブをはじめ、世界中のアートトイ市場における標準的な販売スタイルとなっている。
「ブサかわ」デザインがZ世代に支持される理由

ラブブは北欧神話をモチーフにしたモンスターキャラクターで、鋭い耳や大きな目、裂けた口元とギザギザの歯が特徴的だ。この「完璧ではない」ビジュアルがZ世代の共感を呼んでいる。
80年代のキャベツ畑人形、90年代のファービーなど、「ブサかわ」キャラクターは過去にもヒットしてきた。ラブブ人気も、こうしたノスタルジーと、個性や多様性を重視する価値観の融合によって加速しているとみられる。
SNSと“開封体験”が購買意欲を刺激
ラブブは開封時の驚きと喜びが消費体験の一部となっており、SNSでは「開封動画」が人気コンテンツとして定着している。「シークレットアイテム」を引き当てた瞬間のリアクション動画などがバズを生み、次の購入につながる仕組みが出来上がっている。
特にレアアイテムの当選確率は「72分の1」などと設定されており、開封そのものがエンターテインメント化している。
世界に広がるポップマートの展開
ポップマートは中国国内に400店舗、グローバルでは90カ国・130店舗を展開し、日本にも原宿など複数の直営店を持つ。2023年にアメリカ進出を果たし、2024年末時点で全米に37の路面店を構えている。商品は木曜夜(米東部時間)にECサイトで、金曜朝に店舗で新作が発売される仕組みだ。
人気商品は即完売となるため、入手困難さがさらにラブブの価値を高めている。
他IPとのコラボと新キャラクターも続々登場
ポップマートは、ラブブ以外にも「クライベイビー」や「ピーチ・ライオット」といった独自キャラクターのほか、『デジモン』『パワーパフガールズ』などとのコラボ商品も展開しており、すべてがブラインドボックス形式で販売されている。
売り切れたラブブを求めて店舗を訪れた若者たちが、他のキャラクターに興味を持ち、購入に至るケースも少なくない。これにより、新たな人気キャラクターが生まれる循環が形成されている。
日本文化が“本家”でありながら乗り遅れる構図
ブラインドボックスの仕組みは、もともと日本で育まれた文化である。ガチャや福袋などは日本ではありふれた存在であるが、こうした仕組みをグローバル市場で大成功させたのは中国企業だった。2025年には、ポップマートが『TIME』誌の「世界で最も影響力のある企業100社」に初選出され、日本企業とのコントラストが浮き彫りになった。
手軽な“自宅消費”としての人気背景
物価高騰やコロナ禍によるライフスタイルの変化も、ラブブ人気を後押ししている。Z世代は、外食やコンサートなど高額消費を控える一方で、10~30ドル程度の手頃な価格で“自分へのご褒美”として楽しめるおもちゃに価値を見出している。
こうした“自宅完結型”の体験は、特に若年層に強い支持を受けている。
ガチャ文化の光と影──ギャンブル性への懸念も
一方で、ブラインドボックスには「変動比率強化」と呼ばれる心理的報酬構造が内在しており、スロットマシンなどと同様のギャンブル性が指摘されている。報酬がいつ得られるか分からない仕組みにより、脳内でドーパミンが分泌され、さらなる購入衝動が刺激されるといった行動心理も確認されている。
すでにゲーム分野では「ガチャ課金」への規制を導入している国もあり、ブラインドボックス・トイに対しても今後、社会的議論や規制が進む可能性がある。
「ガチャ文化」は現代の消費行動を映す鏡
Z世代の間で爆発的な人気を誇るラブブと、その背後にあるガチャ文化は、単なるトレンドを超え、若者の消費行動や価値観、ライフスタイルを象徴する存在となっている。日本発の文化が世界を席巻する一方で、その果実を他国企業に先取りされる現状は、グローバル時代における文化と経済の交錯を映し出している。