ティックトッカー「最強ちゃん」汚部屋裁判 東京地裁が明け渡し命令

数万匹の害虫と悪臭、住民が被害を訴え

フォロワー約40万人を抱えるティックトッカー「最強ちゃん」が居住するマンションをめぐり、建物の明け渡しを命じる判決が東京地裁で下された。判決は今年6月に出され、滞納家賃約130万円の支払いも命じられた。背景には、数万匹のゴキブリや悪臭、さらには罵声による近隣住民への深刻な被害があった。


「虫屋敷配信」で注目を集めるも…

「最強ちゃん」は2016年に世田谷区内のマンションに入居。当初は目立った問題はなかったが、2022年頃から家賃滞納を重ね、最終的に未払いは130万円に達した。

その一方で、TikTok上では「虫屋敷配信」として、部屋に繁殖した大量の害虫を公開する動画を投稿。奇異な映像はフォロワーを集め、カルト的な人気を得ていた。しかし、住民にとっては耐え難い被害となり、訴状には「改善の意思が見られない」と記載された。


住民証言に見る深刻な生活被害

裁判に提出された住民の証言によれば、ハエやゴキブリが日常的に発生し、バルサンなどの対策を続けても効果がなかったという。ある入居者は、鞄に潜んだゴキブリが取引先で這い出し、信用を失った結果、事務所移転を余儀なくされた。

また隣室住民は「尿と生ゴミの臭気」「腰まで積まれたゴミから溢れ出すゴキブリ」といった惨状を証言。旅行や外泊が不可能になり、心身ともに追い詰められたと述べた。


罵声と迷惑行為も

「最強ちゃん」は入居直後から隣室に向けて壁を叩き、「バカ」「死ね」といった罵声を深夜にも繰り返した。警察が出動したこともあったが、改善はなかった。結果として、両隣の住民は退去に追い込まれ、静かな住環境は崩壊した。


裁判の経緯と判決

オーナー会社は警告を重ねたが効果がなく、訴訟に踏み切った。しかし「最強ちゃん」は出廷せず、答弁書も提出しなかったため「擬制自白」となり、原告の主張はすべて認められた。東京地裁は建物の明け渡しと滞納家賃の支払いを命じた。ネットで話題を集めた配信行為も、司法の場では「迷惑行為」として断罪された。


控訴理由とその受け止め

被告側は判決を不服として控訴。理由書には「精神病による生活困難」「親からの虐待やいじめの経験」が挙げられた。これらが事実であれば被告が社会的に不遇な環境に置かれていた側面は否定できない。しかし、近隣住民に与えた被害が正当化されるものではないとの見方が強い。


ネットの笑いと現実の被害

「最強ちゃん」の動画はSNS上で「面白い」と受け止められる一方、その裏で住民は生活環境を破壊されていた。炎上目的の配信が現実社会で他者の生活を侵害した場合、それは単なるコンテンツではなく加害行為である。今回の裁判は、フォロワー数や再生回数が現実社会での責任を免れさせることはできないことを示した。