被爆の実感こもる発言に「心を砕いている印象」と専門家評価
2025年8月6日に広島市で開かれた平和記念式典において、石破茂首相のあいさつが注目を集めている。SNS上では「自分の言葉で語っている」といった称賛が相次ぎ、政治学者からも「戦後80年にふさわしい」と好意的な評価が寄せられている。
自身の体験に基づく発言で共感呼ぶ
式典は午前8時に始まり、原爆投下時刻の8時15分には黙とうが行われた。広島市の松井一実市長による平和宣言、地元小学生による「平和への誓い」に続き、石破首相があいさつに立った。
首相は冒頭、「2年前の9月、広島平和記念資料館を、改装後初めて訪問しました」と述べ、館内で見た展示や受けた衝撃を具体的に語った。「黒焦げになった無辜の人々」「熱線により一瞬にして影となった石」などの描写を交え、「人々の夢や明るい未来が瞬時に容赦なく奪われたことに言葉を失いました」と語った。
高千穂大学の政治学者・五野井郁夫教授は、「本人が見たものに基づいた細かな描写が盛り込まれており、被爆者の問題に心を砕いている印象を受けた」と評価した。
歌人の短歌を引用、型通りでない構成
あいさつの結びでは、歌人・正田篠枝氏の短歌を2度にわたり読み上げた。これについて五野井氏は「官僚任せのパッケージではなく、原爆の悲惨さを正しく伝えるという意味で適した表現だったのではないか」と述べている。
過去の首相あいさつとの違い
歴代の首相による平和記念式典でのあいさつは、SNSや被爆者団体からたびたび批判されてきた。2020年の安倍晋三首相のあいさつは、広島と長崎でほぼ同一内容であったことが判明し、「コピペ」との批判を招いた。2018年と2019年も内容はほぼ同様であった。
2021年には菅義偉首相が原稿の一部を読み飛ばす場面があり、「原稿がのりでくっついていた」と釈明した。2022年の岸田文雄首相も、安倍氏と同様に両都市でほぼ同じ内容のあいさつを行った。
こうした傾向に対して、五野井氏は「被爆体験を人ごととして捉えていて、緊張感が感じられない」とし、「人の心が通っていないあいさつだった」と辛辣に批判した。
「もう一声」の指摘も
一方で、石破首相のあいさつは「核なき世界」への政府方針に関しては、従来の立場を踏襲している。五野井氏は「日米同盟を重視する外交姿勢から仕方ない面もあるが、被爆者からすると、もう一歩踏み込んでほしかったと感じるのではないか」と述べつつ、「被爆国であることをしっかり見つめた、80年の追悼の辞としてはまともなものであった」と総評した。