非常戒厳令を巡る弾劾、民主化後で2人目の罷免
韓国の憲法裁判所は4日、非常戒厳令の宣布を巡り弾劾訴追されていた尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の罷免を決定した。これにより尹氏は即時失職し、憲法の規定に基づき、60日以内に大統領選挙が実施されることとなる。
大統領の弾劾・罷免は、2017年の朴槿恵(パク・クネ)氏以来2人目であり、尹氏の在任期間は約2年10カ月と、韓国の民主化後の歴代大統領の中で最も短かった。
ソウル市内では尹氏の罷免に反対する支持者が抗議デモを展開する可能性があり、警察は厳戒態勢を敷いている。
非常戒厳令の背景と憲法違反の判断
尹氏は昨年12月3日夜、政府の方針に反対し続ける野党を「反国家勢力」と批判し、「非常戒厳」を宣布。国会を含む国家機関に軍や警察を投入した。しかし、国会は約2時間半後に戒厳令解除を求める決議案を可決し、その数時間後に戒厳令は解除された。
12月14日には国会が「戒厳令の宣布は憲法違反にあたる」として尹氏の弾劾訴追案を可決。憲法裁判所はこれを受け、審理を進めていた。
国会側は審理において、戒厳令が憲法の定める「戦時やそれに準じる国家非常事態」の条件を満たしていなかったと指摘。さらに、尹氏が国会の機能停止を狙って軍を投入したことは「憲法秩序を乱す行為」だと主張した。
これに対し、尹氏側は「戒厳令は国民に対し(野党の行為を)知らせるための措置だった」と説明。軍の投入も時間と規模を限定していたとし、「国会を麻痺させる意図はなかった」と反論していた。
尹氏の処遇、元大統領の礼遇はく奪へ
罷免が決定したことで、尹氏は元大統領としての礼遇をほぼすべて失うことになる。韓国では、弾劾により退任した大統領は元大統領としての年金、秘書官・運転手の支給、記念事業の費用支援、さらには国立墓地「国立顕忠院」への埋葬資格も失う。
ただし、警護については一部制限付きで受けられる可能性がある。また、過去の例を踏まえると、尹氏は速やかに公邸を退去し、私邸に移るとみられる。朴槿恵氏の場合、罷免決定後56時間で青瓦台(旧大統領府)を退去している。
韓国の歴代弾劾大統領
韓国で弾劾訴追を受けた大統領は、尹氏を含め3人となる。
- 盧武鉉(ノ・ムヒョン)氏(2004年):選挙法違反の疑いで弾劾訴追されたが、憲法裁判所は「弾劾するほどの重大性はない」として請求を棄却。
- 朴槿恵(パク・クネ)氏(2016年):友人の国政介入事件などを巡り弾劾訴追され、憲法裁判所は全員一致で罷免を決定。
- 尹錫悦(ユン・ソンニョル)氏(2025年):非常戒厳令を巡る憲法違反を理由に罷免。
韓国では、弾劾された大統領がその後も法的・政治的に厳しい状況に置かれることが多い。尹氏も今後、司法当局の捜査を受ける可能性がある。
大統領選挙の行方や、今後の韓国政治の動向が注目される。